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『生蕎麦』という文字を見て、ソバ好きであれば、すぐに「きそば」と読むだろう。むしろ、「『生蕎麦』の読み方は何か」という思考にすらいたらないかも知れない。しかし、一般的には『生蕎麦』は、「なまそば」と誤読されることも少なくない。
そもそも、お蕎麦といえば、すべてソバ粉からできていた。今でこそ『十割蕎麦』などといって区別するが、昔は十割そばが当たり前だったのである。ところが、江戸時代中期ごろから、小麦粉などのつなぎを入れる方法が広まり始めた。
ソバ粉より安価な小麦粉が入ったお蕎麦は、やがてソバ粉十割のお蕎麦と区別されるようになる。それが『二八蕎麦』と『生蕎麦』。ちなみに、『生(き)』とは元来、「混じり気のない」といった意味の言葉。そういう意味で『生蕎麦』と名づけられたのだが、時代とともに『生(き)』という言葉の意味そのものが認識されなくなり、『生蕎麦』という言葉の読み方や意味を正確に捉えられなくなる人が増えたと推測される。
加えて、『生麺』『生チョコ』といって、不必要に加熱処理や乾燥されていない食品が重宝される風潮が生まれた。そのため、『生蕎麦』の文字を見て「なまそば」と誤読する人が出てきたよう。
もっとも、言葉は変化するものなので、現在ではあえて「なまそば」と読むこともある。たとえば、乾麺のお蕎麦に対しての『生(なま)蕎麦』。”打ち立てのお蕎麦を出しています”というアピールで、『生(なま)蕎麦』を掲げるそば屋もあると言う。てっきりソバ粉十割の『生(き)蕎麦』と思って食べたら、どう見ても違ったと、そば好きから聞かれる話は枚挙に暇がない。
しかし、先にも述べたように言葉は変化するもの。『生(なま)蕎麦』が一般に広がりを見せれば、それも誤読でなくなる。ただ、ソバ好きとしては本来の意味も、言葉の変遷も知っておきたいし、『生蕎麦』の文字を見たら、早合点せずにいただきたい。