蕎麦の薬味と言えば、わさび、ネギ、七味唐辛子などがあるが、そば切りが流行し始めた江戸時代には実は、今では想像がつかないようなものも、蕎麦の薬味として食べられていた。
本記事では江戸時代に刊行された書物から、蕎麦の薬味の変遷を探りたい。
⒈江戸時代前期『料理物語』(1643年)
1643年徳川家光が江戸幕府三代将軍を勤めていた1643年に刊行された、料理本『料理物語』によると、蕎麦切りに加えると良い物は“大根の汁”とある。さらに花かつお、大根おろし、あさつき、からし、わさびなども加えて良いとされた。
あさつきとは、『浅葱』という漢字から想像されるように見た目はネギに似た野菜。しかし分類上は別の物であり、ネギよりも辛味が強いとされる。何れにしても、花かつおを除いては、江戸初期、蕎麦には辛味の強い物を添えるのが良いとされたようだ。
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⒉江戸時代前期末『本朝食鑑』(1697年)
『生類憐れみの令』で知られる五代将軍徳川家綱の時代。食べ物の医薬的な効能などについて記述された『本朝食鑑』が刊行された。その中で、蕎麦の薬味に対する言及があり、『料理物語』と同じく、大根汁、花かつお、わさびが推奨されている。
さらに、唐辛子や海苔、梅干しなど現代の蕎麦の薬味に通じるものも取り上げられている。一方、みかんの皮や焼き味噌は今ではなかなか見かけない薬味。
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⒊江戸時代中期『和漢三才図会』(1712年)
『本朝食鑑』とほぼ同時期に刊行された『和(わ)漢(かん)三(さん)才(さい)図(ず)会(え)』は、百科事典。医師によって編纂されているため、医学的な記載はかなり正確とされている。
『和漢三才図会』の中でも、そば切りの薬味についての言及があり、やはりわさびや大根のような香りが良く辛い物を合わせるのが良いとされた。
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⒋江戸時代後期『蕎麦全書』(1751)
今尚、蕎麦好きの間で名著として知られ、現代語訳がなされている『蕎麦全書』。この中では、辛味大根のしぼり汁が第一推奨の薬味。
そのほか、花かつお、みかんの皮、焼き味噌、わさび、海苔、梅干し、生葱の根の白い部分と、これまでの書物で推奨された薬味がまとめられた形になっている。
なお、『蕎麦全書』ではこれらの薬味の効能にも触れられており、江戸時代から蕎麦と薬味の健康への効果が注目されていたことがわかる。
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⒌【番外編】うどんの薬味の変遷
蕎麦と一緒に提供する店も多いうどん。はじめ、うどんの薬味は、胡椒や梅、大根汁、カツオ汁、垂れ味噌汁などだった。江戸時代後期に七味唐辛子が使われるようになると胡椒は姿を消した。
まとめ
最初に蕎麦の薬味としてもてはやされたのは大根の汁。その他、花かつおやあさつき、からし、わさび、唐辛子など辛味のあるものが好まれた。
蕎麦と薬味のある健康への効果を述べた書物もあり、当時から蕎麦や薬味が健康に良いものと認識されていたことがわかる。