そば打ちの工程で、最も難しいのは加水と捏ねと言われるほど、ソバ粉に水分を加えて玉にしていく作業は難しいと言われる。この作業は一般に『水回し』と呼ばれて、文字通り水を使うのだが、一部、湯を使う地域もあるらしい。また、初心者や力作業が大変な女性向けに湯ごねを推奨している場合もあるというが、果たして、お蕎麦の湯ごねは問題ないのだろうか。
1.ソバ粉が粘性を持つ理由
ソバ粉にはおよそ12%のたんぱく質が含まれている。タンパク質の特性として、水と混ざるとグルテンを形成して、粘性を持つ。そば打ちの水回しでは、このたんぱく質の特性を利用して、捏ねて玉にしていくわけだが、いかんせん、わずか12%しか含まれていない蛋白質の特性を活かすのは、なかなか至難の業。
一方、ソバ粉にはでんぷん質が豊富に含まれる。その割合は、およそ70%にも及ぶ。澱粉もまた糊化して粘性を持つという特性があるが、糊化させるには熱湯が必要。熱湯を加えることで、約70%も含まれるでんぷんの糊化を促し、楽にソバ粉をつなげられる。
つまり、ソバ粉に粘性を持たせるには、水でたんぱく質の特性を活かすか、お湯ででんぷんの特性を活かすか、という選択が必要になってくる。
ちなみに、小麦粉にはタンパク質が多く含まれ、グルテンを形成しやすいので、小麦粉をつなぎとして用いた場合は、水でもそば打ちしやすい。
2.湯ごねの問題点
ソバ粉を楽につなげられるため、今も一部の地域等で行われている湯ごねによるソバ打ち。また、そうでなくても更科蕎麦や十割蕎麦では、湯ごねを行っているそば店もある。
ただ、一般論として湯捏ねで打ったお蕎麦は伸びやすいと言われる。また、食感が悪くなる、香りが落ちると感じることが多いので、水捏ねをしているそば屋が圧倒的に多い。