温かいおそばに、ドドンと乗った大きな油揚げ。お店自慢の汁をたっぷり吸い、噛み締めるほどに甘辛い汁が出てくる『きつねそば』。いなりと一緒で、油揚げが狐の好物ということから、ついた名称。
ところが、大阪で『きつね』と頼むと、お蕎麦が食べられないかもしれない。
1.大阪に『きつねそば』はない!?
東京をはじめとした関東圏では、『きつね』というと油揚げが乗ったおそばやうどんを指す、一方、『たぬき』といえば天かすが乗っているおそばやうどんを言う。だから、お蕎麦もうどんも扱うお店で、「油揚げが乗ったお蕎麦」を食べたい場合には、『きつねそば』と注文する必要がある。
ところが、大阪では『きつね』と『たぬき』の定義が違う。『きつね』は、「油揚げが乗ったうどん」、『たぬき』は、「油揚げが乗ったおそば」。つまり『きつね』と注文すれば、うどんが出てくるし、『たぬき』と注文すれば、お蕎麦が出てくる。
お蕎麦を食べたいのに、大阪でうっかり『きつね』と言おうものなら、油揚げが乗った『うどん』が出てきてしまう。これはソバ好きにとっては、致命的な違い。大阪できつねソバを食べたい場合は、少々ややこしいが、『たぬき』を頼もう。
またお店によっては、関東で言う『きつね』を『篠田(信田)』と言うところもある。昔、大阪近郊にある信田の森に白狐が棲んでいたという言い伝えから、そう名づけられた。
なお、上記の定義の通りなので、大阪には関東で言うところの『きつねそば』や『たぬきうどん』という名称のメニューがない。
2.大阪では天かす入りのおソバを『ハイカラ』と呼ぶ
では、天かす入りのお蕎麦メニューそのものがないかというと、決してそうではない。関東で言う『たぬきソバ』は、大阪では『ハイカラ』と呼ばれる。
天かすをお蕎麦に乗せるという文化は、明治以降に関東で始まったとされる。それが大正時代に大阪に伝わる。その時、大阪の人は「本来捨ててしまうような天かすを入れるとは、東京の人はハイカラやな」と思ったらしい。それから、天かす入りのお蕎麦やうどんは『ハイカラ』と呼ばれるようになった。
3.京都の『きつね』は大阪とも違う
ここまできつねとたぬきの違いについて、関東圏と関西圏という違いで述べずに、関東圏と『大阪』といってきたのにはわけがある。同じ関西圏でも、京都ではまた『きつね』の定義が違うから。
京都で『きつね』というと、きつねうどんが出てくるところまでは、大阪と同じ。何が違うかというと、油揚げ。関東や大阪の『きつね』のように、大きな一枚の油揚げが乗っているわけではない。2センチ前後の幅に短冊切りにされた油揚げと、九条ねぎをのせるのが京都の『きつね』。ちなみに麺は細麺。
油揚げが短冊切りにされた理由は、公家文化があったから。つまり、食べ物を上品にいただきたい京都の人にとって、口を大きく開けてかぶりつく必要がある、一枚の油揚げは許容されない食べ物。よって、油揚げが短冊切りにされたと言う。
さらに京都の『たぬき』は、大阪の『たぬき蕎麦』とも違い、『あんかけうどん』を指す。そもそも盆地で、冬場の寒さが厳しい京都では、保温性に優れたあんかけの食べ物が多い。『あんかけうどん』もそのひとつであるが、名前の由来についてははっきりとしていない。
京都の『きつね(短冊切りされたきつねうどん)』が、(あんかけのように)ドロンと化けて『たぬき』になった、という説。また、あんかけは一見、湯気も立たずに熱くなさそうだが、食べると火傷をしそうなほど熱い。そんな化かす様子を『たぬき』と掛けた、といった説がある。
まとめ
関東圏の『きつね』や『たぬき』と、大阪や京都の『きつね』や『たぬき』はまったくの別物。関西圏で、油揚げがのったお蕎麦を食べたい場合には、メニューを確認して注文した方がいいだろう。
でないと、”きつねやたぬきに化かされる”ハメになるかもしれない。