お蕎麦をもっともシンプルに楽しむ食べ方として、『せいろ』を注文する人も多い。実際、筆者も特に初めていく蕎麦屋に関しては『せいろ』を注文することが圧倒的。『せいろ』は、一般的に四角い器に、竹でできたすだれを乗せ、その上にお蕎麦を盛ったもののことを言う。ではなぜ『せいろ』と呼ばれるようになったのだろうか。
1.『せいろ』の由来
『せいろ』という言葉は、『蒸籠(セイロウ)』から来ている。シュウマイなど蒸し料理を作るときに使う、調理器具。江戸時代までは、お蕎麦は茹でるのではなく、蒸して提供されていたよう。御そばを蒸籠で蒸したまま、提供されたため、『蒸籠』となり、『せいろ』と呼ばれるようになった。
2.蒸籠のまま提供された意外な理由
ではなぜ、調理器具に入れたままお蕎麦が提供されたのだろうか。これが実に、実用的な理由で、「生そばが切れやすかったから」というもの。蒸してから器に盛ると、生そばは切れてしまうので、蒸し器の蒸籠に入れたまま提供されたらしい。これが『せいろ』の始まり。
ちなみに、江戸時代初期までは、皿盛りが基本だった。今でこそ、皿に盛って提供される郷土そばを『皿蕎麦』などといって特別視するが、もともとはお蕎麦は皿に盛るものだったのである。
3.蒸し蕎麦のメリットとデメリット
現在は、お蕎麦は茹でるものであり、蒸し蕎麦を提供する蕎麦屋はかなり少ないと考えられる。では、蒸し蕎麦のメリットとデメリットとは何だろうか。
3-1.蒸し蕎麦のメリット
・香りがよい
多くの蒸し料理がそうであるように、蒸し器に閉じ込めて調理するため、香りが逃げず豊かになる傾向にある。風味豊かなお蕎麦は、なおいっそうのこと風味豊かになるだろう。
・栄養価が高い
様々な栄養素が含まれるお蕎麦であるが、水溶性のものも多い。特にビタミン類やルチンなどは、茹でることによってその多くが流出してしまうといわれる。その点、蒸し蕎麦は栄養素をおそばに閉じ込めておけると考えられる。
3-2.蒸し蕎麦のデメリット
・食感が悪い
あくまで推察ではあるが、茹でることに比べると水分が逃げてしまうので、ソバ麺がボソボソになってしまう可能性がある。ツルツルのど越しのよさを求めるなら、蒸し蕎麦にはいくつかの越えなければならないハードルが存在するだろう。
まとめ
『せいろ』が生まれたのは、生そばが切れやすいのをカバーするため、という実用的な理由からだった。今ではお蕎麦といえば茹でるものとなってしまったが、そんな歴史に心を寄せてみるのも、またお蕎麦を楽しむ一端になるだろう。