せいろやざるそばにはワサビが欠かせない。あの目の覚めるような香り、ツーンと鼻から抜ける爽快感、クリアになる思考。仕事の合間に食べれば、その後の作業もサクサクと進みそうな気持ちにさえ、させてくれる山葵。
上等な御蕎麦屋は、当然、わさびにもこだわる。最近はチェーン系ソバ屋でも、うまい山葵が増えてきたが、やはり本物との差を感じられずにはいられない。では、“本物のわさび”とは?
お蕎麦屋で提供されるワサビは、実は2種類ある。おそば好きなら、その違いを押さえておきたい。
1.本わさび
本わさびとは、いわゆる“本物のわさび”。ちなみに、「本わさび」という品種があるわけではなく、あくまで「わさび」というのが本当の名前。文明の進化によって、“まがいもののわさび”がたくさん開発されたために、敢えて「本わさび」と呼ばれるようになった。
山葵は日本原産の植物。奥深い山の、綺麗な水が流れるあたりに自生していることもある。しかし、一般に販売されている「本わさび」は、出荷を目的として栽培されたものと考えていいだろう。
わさびの香りを引き立たせるには、すりおろし方が重要。目の細かいおろし板や、鮫皮のわさびおろしを使うとよい。なお、おろし金はワサビに嫌われるといった言い伝えがあるが、実際はおろし金ですりおろした山葵を提供するお蕎麦屋は少なくないらしい。
大切なのは、山葵の細胞を壊し、たくさんの酸素と触れ合わせること。こうすることで、わさびの香りを引き立たせることができる。よっておろす際には時間をかけ、ゆっくりとのの字を書くようにすりおろす。
2.西洋わさび
西洋では、ローストビーフの薬味として使われる西洋わさびのすりおろし。明治時代に日本に入ってきた西洋わさびは、一部が野生化し、北海道では「山わさび」「アイヌワサビ」「エゾワサビ」などと呼ばれている。
しかし本来の名前は、「ホースラディッシュ」。大根の一種。つまり、本来、植物として山葵とは種類の違うものである。しかし、いわゆる本わさびは高級品。そのため、西洋わさびの根を乾燥して粉末にし、着色剤や香料、増粘剤、植物油などを添加して練る。こうしてワサビの代用品として、広く用いられている。「粉わさび」やスーパーなどで売っているチューブ入りワサビは、この西洋わさびが原料。
ちなみに、「日本加工わさび協会」の基準によると、原料に占める、本わさびの使用量が50%未満で「本わさび入り」、50%以上で「本わさび 使用」と表記できる。つまり、「本わさび入り」と表記されたチューブ入りワサビは、本わさびが1%入っているか、49%入っているかははわからない。もしかすると、この使用量の割合が価格の差なのかもしれない。
まとめ
ワサビには「本わさび」と「西洋わさび」の2種類がある。本わさびが、日本原産の「わさび」であるが、高級品ゆえ、チェーン系のお蕎麦屋で本わさびだけが提供されることはまずないと考えてよいだろう。そこで代用されるのが西洋わさび。わさびとは言うものの、実際は大根の一種で、わさびに似せるために着色料などが添加されている。スーパーなどで売っているチューブ入りワサビも、西洋わさびが原料となっていることがほとんどだが、中には本わさびが入っているものもあり。
高級蕎麦屋やこだわりのあるソバ屋では、本わさびが提供されることが多いと考えられる。
ちなみに、お客にわさびをすりおろさせてくれるお店があるが、これはお客に楽しんでもらうためのパフォーマンスの一つ。おろしたてのわさびが一番うまいかと言えば、必ずしもそうではない。角が立ちすぎて、苦手な人もいるだろう。
うまい山葵に出会ったときは、ワサビについてそば屋の主人に尋ねてみるのも、いいかもしれない。