江戸蕎麦と言えば、「砂場」「更科」「藪」の御三家が名高い。“三代系統”とも称され、蕎麦屋の中でも高級店に分類されることが多い。
そしてお蕎麦そのものだけでなく、薬味にも御三家がある。昔から伝わるお蕎麦の薬味御三家について深めてみよう。
⒈薬味御三家『ネギ』『大根おろし』『七味唐辛子』
もり蕎麦の薬味と言われて、もしかするとあなたは『ネギ』と『わさび』をイメージしたかもしれない。実際、現代の蕎麦屋では高級店であろうと、駅前のチェーン店であろうと、ネギとわさびが付いてくることが多い。
むしろネギとわさびが付いていないと、物足りないと思うのではないだろうか。そして七味唐辛子もほとんどの蕎麦屋が無料で提供している。
一方、『大根おろし』は、わざわざ『おろし蕎麦』というメニューが存在するくらい特別感がある。万が一、もり蕎麦に大根おろしが付いて来ようものなら、「サービスがいいな!」とそれだけで話題になってしまいそうなくらいの物珍しさだ。
ところが『蕎麦の事典』新島 繁著,2011年 講談社学術文庫 によると、薬味御三家は『ネギ』『大根おろし』『七味唐辛子』と言う。正確には、『ネギ』『大根おろし』『七味唐辛子』“だった”。
⒉江戸蕎麦のネギは『根深ネギ』
薬味御三家のうちネギは、『根深ネギ』を指すことが多い。根深ネギとは、白ネギや長ネギとも呼ばれ、ツーンとした香りと辛味が特徴のネギ。みずみずしい切り口が、お蕎麦ともよく合う。
根深ネギに付いてはこちらの記事にも詳しくあります⇨江戸蕎麦の薬味『根深葱』は白ネギとは別物?
根深ネギは関東以北でよく栽培されていたため、江戸蕎麦では根深ネギを使うのが当たり前となっているが、関東以西では青ネギが使われることが多い。
以前は『千住ネギ』という最高級ネギが使われていたが、安価な輸入物などに押され、近年は鳴りを潜めていた。が、最近になって『千住ネギ』ブランドを復活させようと、都内の一部農家などの間で盛り上がりを見せている。
参照:http://shinr.info/
⒊元は大根おろしではなく、大根しぼり汁?
お蕎麦の薬味として使われる大根は、おろしたものではなくしぼり汁だったという説がある。今の埼玉県で取れた辛味の強い大根が重宝されたようで、辛い大根のしぼり汁をお蕎麦に絡めて食べるのがよしとされたらしい。
薬味ではなく、大根をそのまま使った『大根蕎麦』も別に存在する。大根を千切りにして、ソバ麺に絡めて食べる。
大根と麺類とを一緒に食べる風習は中国から伝わったとされるが、大根そばは関東から、東北、新潟、静岡など広く広がり、それぞれの地域で郷土蕎麦として親しまれている。
特に青森県の一部では細かく刻んで茹でた大根をソバ粉と合わせて打つ『大根そば切り』なるものもある。
参照:https://tabelog.com/
⒋七色を楽しむ七味唐辛子
七味唐辛子はその名の通り、七種の香辛料からなる薬味。唐辛子を筆頭に、ケシの実、麻の実、山椒の実、ごま、陳皮、菜種の七種が混ぜられている。
メーカーによって配合率が異なり、唐辛子の割合が高いほど辛味も強い。唐辛子のみでできている一味唐辛子が、最も辛い。
またメーカーによっては七味に加えて、海苔やシソを入れたり、一部の香辛料を他のものに入れ替えるなどしてオリジナリティを出している。
時々、変わった七味唐辛子を置いている蕎麦屋に出会うこともあり、その時はなんかだワクワクするものである。
まとめ
今でこそ、お蕎麦の薬味と言えばわさびやネギが多いが、本来は『ネギ』『大根おろし』『七味唐辛子』が薬味御三家だった。中でも大根おろしは独立して『おろし蕎麦』などとして提供されることが多い。
脇役として扱われがちな薬味も、その歴史や種類に注目するとまたお蕎麦を食べる楽しみが増えるというものである。