蕎麦屋と言えば、一般的に日本風のつくりの建物が多い。一方で、そば屋以外の食堂と見分けのつかないもの、チェーン系そば屋などデザインよりも利便性を重視したもの、モダンでとことん外装や内装にこだわったものまである。
大野祺郎著『蕎麦手帳』によると、ソバ屋の造りは『庵風』『和風』『洋風』『しもた屋風(自宅改装店)』の4種類に分類されるらしい。ここに独自の視点から、『カフェバー風』『大衆食堂風』を追加して、それぞれについて考察していく。
1.庵風
ソバ屋の原点は、この『庵風』が一番近いのではないだろうか。『庵(いおり)』とは、雨風を凌ぐ最低限の設備があるような粗末な家のことを言い、かつては僧侶などが住んでいた。
現代に比べると、格段に物がなかった時代に”粗末”と言われるのだから、その粗末さたるや、我々の想像をはるかに超えるものであっただろう。
現代ではその”シンプルさ”が却って評価され、「風情があるそば屋」と言われることも少なくない。
また、お蕎麦屋の屋号には『庵』がつくものが多い。これは、『称住院(しょうおういん)』という寺内にあった、『道光庵』という支院がきっかけと言われている。
そこの庵主はそば打ちの名手で、その腕前は、本業の蕎麦屋を凌ぐほど。そのため、『道光庵』という名前にあやかって、『○○庵』という屋号にする蕎麦屋が増えたという。
つまり『庵風』のそば屋は、”そば屋の基本”として、ソバ好きの日本人のDNAに刻まれているのかもしれない。
2.和風
そば屋と聞いて、多くの人がイメージするのが『和風』の造りだろう。木材をふんだんに使った重厚な造りが特徴で、店内には座敷や小上がり席があるのが基本。老舗やこだわりのそば屋などでは、庭園などもある。
純和風の住宅そのものが減っていることもあり、存在感は抜群。独特の風格を放ち、高級感がある。実際、価格帯も高めであることが多い。
3.洋風
近年増えてきているのが『洋風』の蕎麦屋。その名の通り、洋風の造りで、一見するとお蕎麦屋には見えないような外観をしている。中には、どう見ても洋食レストランといったおしゃれなお店もある。
そういったお店は、内装にもこだわりがあり、ブラックをベースにしたシックな雰囲気でまとめていたり、逆にパステルカラーや鮮やかな色を用いて、ポップに仕上げていたりと個性豊か。
お蕎麦も、昔ながらのせいろではなく、オリジナルの食器で運ばれてきたり、蕎麦前にワインがあったりとユニーク。もちろん、最後はお蕎麦の善し悪しが決め手にはなるけれど、お店に力を入れているだけあって、おそばも旨いことが多い。
4.しもた屋風(自宅改装店)
自宅の一部を改装するなどして造ったそば屋が『しもた屋風』。しもた屋風にすることのメリットは何と言っても、資金が少なくても蕎麦屋を開業できること。ソバ好きのサラリーマンが、退職して蕎麦屋を始める時などで多くみられる例。
しもた屋風そば屋の魅力は、何と言っても自宅ならではの居心地の良さや独特の安心感だろう。小規模ゆえ、まるで自宅でおソバをすするように、じっくりをお蕎麦を味わうことができる。
お品書きも基本のお蕎麦やお酒、肴、一品メニューで、敢えて小洒落ない心地よさが癖になる。
5.カフェバー風
洋風の一種ともいえる『カフェバー風』そば屋。洋風そば屋との線引きは曖昧だが、より「大人の空間」「夜の雰囲気」を大切にした店造りが特徴。
外観、内装ともにモダンでシック。洋風ベースの造りに、そば屋らしい暖簾を合わせるなど、店主のセンスが垣間見える。薄暗く落とした照明で、雰囲気はまさにBar。大人のデートなどに最適。
メニューも一般的なお蕎麦に加えて、洋風料理のようにアレンジしたものを取り扱っていることが多い。お酒も日本酒に加えて、ワインやカクテル、またそれに合うおつまみも。
雰囲気代ということで、価格も高め設定のことが多い。
6.大衆食堂風
見たところ、メニューは何でもござれのお蕎麦屋に見えない『大衆食堂風』そば屋。外観と内装もこれといったこだわりが見られず、お品書にも「お蕎麦屋!?」と言いたくなる一品が取り扱われていることも。
こうしたお店は地域に愛されていて、昼間からお酒とお蕎麦を楽しみながら、話に花を咲かせる近所のおじいちゃん、おばあちゃんで溢れかえっている。そして、そば仙人の目撃情報も多数・・・
実は、こういった大衆食堂風そば屋の主人は、そば打ちの名手だったりして、コスパ抜群の旨いお蕎麦が出てくることも少なくない。そんなお蕎麦屋に出会えたとき、ソバふりーくとして最上の喜びを味わえる。
まとめ
外観や内装へのこだわりが、必ずしもお蕎麦の旨さに反映されているとは限らないが、せっかくお蕎麦を味わうのであれば、お店全体の雰囲気もろとも楽しみたい。
また、都内を中心に、洋風やカフェバー風のお蕎麦屋が増えている印象。
時に外観や内装とお蕎麦とのマッチングに感嘆しながら、時にギャップに驚嘆しながら、ソバ道を極めていきたい。
(参考)
大野祺郎著『蕎麦手帳』東京書籍 2010年7月2日 第1刷発行