もり蕎麦についてくる薬味の代表と言えばわさび。ツンと鼻から抜ける香りがクセになり、なんだか頭も体もスッキリする。
ところでお蕎麦のワサビと言えば、ソバ麺に直接つけるか、つゆに溶かすかでしばしば論争になる。「わさびをそばつゆに溶かすなんて、お蕎麦の食べ方を知らない!」そんな蕎麦通の声も聞こえてきそうだが、実はつゆに溶かすのも決して間違いではないとか?そばつゆの歴史から、探ってみた。
1.そばつゆの歴史
そばつゆと言えば、鰹節を使ってダシを取るのは当たり前!と言いたいところだが、実はそばつゆに鰹節を使うようになったのは、江戸時代に入ってしばらくしてからと考えられている。
江戸時代中期に成立したといわれる歌舞伎の演目『助六』。その中で主人公、助六がそばつゆについて「精進か、生臭か」と問うセリフがある。ここでいう精進とは鰹節を使わないそばつゆ、生臭は鰹節を使うそばつゆを指す。
生臭とは散々な言い方だが、やはり鰹節を使うことでそばつゆに旨みが生まれる。そのため鰹節を使ったそばつゆが広まっていくのだが、“生臭”が気になる人も多かった。この生臭さに対して使われたのがわさびのよう。
つまり、蕎麦との相性がどうこうというより、そばつゆに使った鰹節の生臭さへの対処が、お蕎麦についてくるワサビの始まりらしい。
2.そばつゆにわさびを溶かしても問題ない?
お蕎麦にわさびがつくようになった歴史から考えると、そばつゆに山葵を溶かすのはある意味当然。そもそも、そばつゆの生臭さを消すためのワサビなのだから。
そばつゆにワサビを溶かすことに対して、否定的な意見もあるが、歴史から紐解くと間違いではないというか、本来の使い方ということもできる。
3.現代ではソバ麺に直接ワサビ?
とはいえ、鰹節を使ったそばつゆが生臭かったのは過去の話。現代では気になって食べられないほど生臭いそばつゆが提供されるとは考えにくいし、はじめから鰹節ダシで作られたそばつゆを食べてきた現代人が、今更生臭さが気になることはないだろう。ならば現代には現代の、おそばとワサビの楽しみ方を知っておきたい。
現代の蕎麦好きや蕎麦職人の間では、わさびはそばつゆに溶かさず、お蕎麦に直接つけて食べるのが多数派を占めている。理由は香り。お蕎麦はもちろんのこと、旨い蕎麦屋は当然そばつゆにも半端ない情熱が注がれている。
そんなお蕎麦そのものやそばつゆの味も香りも確認しないうちに、ガバっとワサビを入れてしまうのはもったいない。
まずは、ソバ麺だけをいただいてお蕎麦の香りを楽しむ。次にお猪口に注いだそばつゆに、ちょっとおそばをつけて、そばつゆとのコラボレーションを楽しむ。そして今度はそばつゆにネギを入れて。最後にようやく、お蕎麦に直接わさびを付けて、そばつゆにくぐらす。
こうして、お蕎麦やそばつゆの香り、味の変化を楽しんでいくといいだろう。ちなみに、そばつゆも薬味も、一度に全て使わないこと。そばつゆはだんだん薄くなっていくので、少しずつ使っていくのが最後まで美味しく食べるコツ。
まとめ
お蕎麦にわさびが付くようになったのは、そばつゆに鰹節が使われるようになった江戸時代中期以降と考えられている。鰹節の生臭さを消す目的でワサビが付けられたので、歴史の流れから言えば、そばつゆにわさびを溶いても問題はない。
ただ、現代のそばつゆが生臭いということはほぼない。よってソバ好きや蕎麦職人には、お蕎麦やワサビ、つゆの香りを楽しむために、おそばに直接わさびを付ける食べ方が好まれる。あくまで好みの問題ではあるが。
いずれにしても、おそばを食べる際はお蕎麦だけでなく、そばつゆや山葵をはじめとした薬味まで、たっぷり楽しみたい。